トンネルを抜けて非日常に出会うUnseen Road【房総半島の素掘りトンネル群】

「スイドウ」が気になる。

と言ってもこの場合「水道」ではなく「隧道」の方。耳慣れない言葉かもしれませんが、いわゆるトンネルのことです。

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」

川端康成の「雪国」の一節にもあるように、もしくは「千と千尋の神隠し」の始まりのように、昔も今もトンネルは違う世界へと繋がる扉のように語られてきました。

ならばと、トンネルを思う存分味わえるルートを開拓してみることにしました。

素掘りトンネルの宝庫

調べてみると房総半島にはトンネルが数多く存在することがわかりました。

国土交通省の道路統計年報2017によると、トンネルの多さは大分県(571箇所 延長:149,990m)、北海道(460箇所 延長:339,502m)に次いで千葉県が全国3位。(449箇所 延長:57,400m)

数の割に延長が短いということは、短いトンネルが大部分を占めるということですね。特に大昔に手で掘られた素掘りのトンネルが多いようです。

トンネルを抜けて素敵なところに行けたらいいな。
そんな期待を胸に、圏央道に乗って素掘りトンネルの宝庫、房総半島を目指しました。

3つのトンネルが連なる道

市原鶴舞ICで降りてまず向かったのが、小湊鉄道飯給駅のほど近く、素掘りのトンネルが3連続する道。踏切を越えて200mほど先の交差点を左折して入ります。

 

しばらく進むと先ほども横切った小湊鉄道の線路が現れました。遮断機がないあたりが田舎のローカル線らしくていいですね。本数的に列車に遭遇する確率は低そうですが気をつけて渡ります。

 

一面緑に覆われていますが、もちろん現役の路線です。

柿木台第一トンネル

まず最初に現れたのが、将棋の駒のような形が特徴的なトンネル。これは日本古来の掘り方「観音掘り」と言われる掘り方だそうです。

巻き立てをせずにトンネルを維持するために編み出されたんでしょうね。

 

中はなかなかの狭さ。当然対向車とすれ違うことはできないので、先に入ったもの勝ちになるのでしょう。

等間隔に設置された照明の灯りがワープトンネル感を醸し出しています。

綺麗な五角形をしていますが、岩肌の荒々しさは手で掘ったことを物語っています。

 

竣工年:推定明治32年
延長:78m
幅員:3.5m

柿木台第二トンネル

続いて現れたのは綺麗な円形の素掘りトンネル。入口に何も書いていないので、名前すらわかりませんが、先ほどのトンネルが柿木台第一トンネルなので、こちらは第二と考えるのが自然でしょう。

こちらは観音掘りではなく、丸く掘られています。第一トンネルのすぐ近くにあるのに、なぜ違う掘り方をされているのか。竣工年がそれほど違っているとも思えませんし、謎です。

写真では分かりづらいですが、地層の縞模様が美しい。吸い込まれてしまいそうな迫力のあるトンネルです。

竣工年:不明
延長:不明
幅員:不明

 

切り通しを抜けて先に進みます。

永昌寺トンネル

3つ目はまたしても観音掘りの永昌寺トンネル。てっきり第三トンネルだと思っていましたが、ここに永昌寺の名をぶつけてきました。意表を突いたネーミング。

人生そう思い通りにはいかないということでしょう。

 

第一に比べると掘り方が若干ラフな所もありますね。トンネルというより洞窟のようでもあります。

 

トンネルを抜けると新世界……、ではなくていきなり県道172号と交差するので、飛び出さないように注意です。

入口側はコンクリートで補強されていましたが、反対側から見ると綺麗な五角形であるのがわかります。

竣工年:明治31年
延長:142m
幅員:3.1m

光が射し込むトンネル

続いて向かったのが林道月崎1号線。先ほどの3連トンネルからすぐ近くのところにあります。
ここはピストン林道で行き止まりになっているのですが、その途中に面白いトンネルがあるのです。

それがこの月崎トンネル。

トンネルの中間にぽっかりと穴が空いていて、射し込む光がなんとも幻想的な雰囲気を醸し出しています。

もともとひとつのトンネルだったのが、中間部分が崩落してこのようになったようです。苔むした感じとか、ラピュタの世界に入り込んだような錯覚を覚えます。

 

その先にももうひとつトンネル(というにはあまりにも短いですが)があり、さらにその先が広場になっていて、ここで行き止まりでした。

 

広場の先にはクルマではとても行けそうにない、道の跡のようなものがありました。かつてはどこかに繋がっていたのでしょうか。

 

光のカーテンが美しい。

 

誰も来ないので戻るときにも思う存分写真を撮ることができました。

無念の撤退。手強い林道たち

トンネルを満喫した後は林道をということで、久留里で湧き水汲みとランチを済ませてから、国道410号を南下し横尾林道を目指しました。(立ち寄ったスポットの一覧は記事の最後に)

林道横尾線

のっけからなかなかハードな荒れ具合。ところどころ水たまりも。
これはもしかしたら通り抜けできないかも……。そんな不安が頭をよぎります。

 

嫌な予感は的中し、目の前に走行不能の標識が。

それでもジムニーなら行けるかもしれないと、注意しながら突入。4Lを駆使し前へ進みます。

 

結果は無念の撤退。単独で行くにはあまりにもリスクがありすぎました。

まぁツーリングマップルにも通行止めって書いてあったんですけどね……。

仕方がありません。
大山千枚田に寄り道してから林道金谷元名線へと向かいました。

林道金谷元名線

ここはおそらく千葉で最もメジャーな林道のひとつ。走らないわけにはいかないでしょう。

 

通行不能とは書いてないよね。

 

落石によるものと思われるガードレールの歪み。

 

よしよしまだまだ行ける。

 

岩盤むき出しの路面。車体がかなり揺れるようになってきました。
慎重にラインを見極め、4輪の接地感を確認しながら進みます。

 

膝下くらいの深さはありそうなクレバス。
なんだか横尾線より荒れてる気がするんですが……。

 

砂利が洗い流され、大きな岩がゴロゴロ。この先さらに荒れている感じでした。
バイクなら行けそうですが、クルマだとちょっと怖い。

はい。ここで撤退決定です。2本連続で惨敗という結果に。

この後は海岸沿いを走る国道127号を北上し、江川海岸で美しい景色を見て帰路につきました。

立ち寄りスポット

久留里の名水

久留里には自噴井戸があちこちに点在しており、古くから飲用、酒造、農業用水などに利用されてきたそうです。

水質が良く、美味しいことから「久留里の生きた水」と呼ばれ「平成の名水百選」に選ばれています。

久留里駅に隣接する上総地域交流センター前にも大きな水汲み場があり、コーヒー用にボトル1本分いただきました。家の近くにもこんな場所があったらいいのにな。

la petite maison

水汲み場からほど近くに見つけたかわいいカフェ。

この外観にハートを鷲掴みにされる方も多いのではないでしょうか。地のもの野菜をふんだんに使ったサラダやサンドイッチがとても美味しかったです。窓から見える景色も素晴らしかったですよ。

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La petite maison
君津市栗坪171-7
TEL 0439-27-3700
OPEN 11:30~17:00
木・金 定休日

大山千枚田

都心から一番近い棚田と言われる大山千枚田。「日本の棚田百選」に選出されており、日本の棚田で唯一雨水のみで耕作している天水田でもあります。
375枚の田んぼは稲刈りを目前に控え、たわわに実った稲穂が黄金色に輝いていました。

 

タイムスリップしたかのような懐かしさがこみ上げてくる原風景がそこにはありました。

江川海岸

旅の締めくくりは有名な写真スポットである江川海岸へ。
海に並ぶ電柱が不思議な情景を作り出しています。この電柱はアサリの密漁監視小屋に電気を送るために設置されたもの。現在は使われていないので電気は流れていないようです。

 

一部では「日本のウユニ塩湖」と呼ばれているらしく、この日も大勢の人が写真を撮りに訪れていました。波があり鏡のようにはなっていませんでしたが、条件が良ければさらに美しい景色に出会えるようですね。

まとめ

素掘りトンネルは美しさと恐怖感が同居しており、通り抜けるときのドキドキ感を強く感じました。今回は違う世界には行けませんでしたが、房総半島には他にもたくさんトンネルがあるので、またの機会に探索してみたいですね。

それから林道。
思ったより荒れていて通り抜けられなかったのは心残り。これはノーマルジムニーの性能のせいではなくて、どちらかというと僕の経験不足によるものでしょう。スタックしたことがないので、ジムニーの限界がわからないのです。慣れている人からしたら、全然余裕で行けるレベルなのかもしれません。

安全なところでもっと経験を積んで、しっかり見極められるようになりたい。そう思いました。

ルートマップ